小麦粉惑星

誰かいつもマーガリン潰してる。

『応えろ生きてる星』 を読んだ

冒頭から竹宮ゆゆこ感がすごかった。

勢いと謎の説得力で殴ってくる感じの文章はこの作品でも健在であった。小気味良い小ネタ、テンションの高く、リズム感のある会話中心の文体などの点がこの作者の評価としてよく聞く。しかし、それだけではない。竹宮ゆゆこの作品には「家族のかたち」という大きなテーマが裏でゆったりと流れている。

主人公含め登場人物にはそれぞれに家族がいて、単なるサブキャラクター程度の出番であっても一種の強い個性を持っている。彼らの存在が主人公の助けになることもあれば、大きな心の闇になっている例もある。親と子、家族と自分を軸にして物語の展開があるといっても良いのではないか?

主人公ないし、ヒロインは家族の欠けている要素のパーツになってしまう、なろうとする。田村くんは田村家で1番普通の人間だ。高須竜児は家事が一切できない母のために主婦としての能力を得た。ヒーローだった父になり代わろうとした清澄、今作ではヒロインの朔がそうだったのではないだろうか。ネタバレになってしまうため書けないけれど、ある役割に就くことを目標にして、それを原動力にして輝いていたのに不運にも「失敗作」になってしまった彼女。

目標を定めること、就くポジションを決めることは個性の形成に深く関わる要素だし、そこで作られた個性は強い色を持っている。

死んだ星を生き返らせようとする祈りに。失敗したことで諦めてしまった夢、そっちの方が傷つかなくて済むからと死んでしまったことにした星。大昔に死んでしまっても星の光が地球に届くように、過去の自分が輝いていたころの瞬きを忘れることができない、逃れられない宿命を人間は持っている。でもそれは失敗した人間にしか気づけないことだということも示唆している。

人生の中で失敗は誰にでもあるけれど、それで全てのリズムを崩してしまう人がいるし、失敗を認められない人がいる。

主人公は若いころの失敗と向き合うし、

「失敗作」と決めつけられていた朔は、もう一度生き返る方法、道を主人公に示してもらった。

死んでしまって砕けた星の破片がまた新しい星に生まれ変わる、そんな読後感をくれる作品だった。下半期いちばん好きだったと思う。