小麦粉惑星

誰かいつもマーガリン潰してる。

 伸びた前髪を通してみる太陽光は、暖かくて、眩しくて、しゃぼん玉の表面みたいな虹色をしていました。陽射しを受けると自分の髪が結構茶色いのだと気付きました。髪を染めてみたことはありません、ずっとこの色でした。多分母親の遺伝で、若い頃の写真と髪の色が似ていました。パーマは何回か、かけました。直毛なのが気に入らなくて、髪型まで真面目なのが嫌で、社会への、周りへの反抗?そんなのではないですけれど、大学が決まってから、卒業式の次の日に美容院に行って、校則が無くなってからのパーマです。きまりを破るのは、やっぱり駄目だから、自分の性質にあったことをするのが、安定なのだということはわかり切ったことです。真面目な人は真面目なことをする、型破りな人は無茶なことをする。それが役目、役割。ギャップなんて、それに惹かれるなんて、エラーが起こったのに対処が出来ていないから生じる誤作動だと思います。

 二十歳になったら、煙草吸いそうだね、君は煙草吸うのが似合いそうだからと笑って言ったあの人は元気にしているでしょうか。身体に悪いから、吸わないよきっと。と僕は言いました。あの人はもう煙草を吸っているのかな。吸っていそうな気もするし、なんだか煙草に興味を失くしているような気もします。想像がつきません。煙草吸うの似合いそうと言われた理由も結局のところ分かりません。なんとなく思いついて言っただけかもしれない。あの人の本音は捕らえられないままで、煙みたいでした。

 あのとき、煙草吸うかもねと言っていたら、何か変わっていたでしょうか、去年の誕生日にマルボロを買っていたでしょうか、きまりを破るのはやっぱり嫌いだから、真面目な僕のまま、煙草を吸い始めたのでしょうか。そうしたら、あの人は、やっぱり吸ったね、似合ってるねって笑って言ったのかな、それとも、思ったより、あんまり似合ってないじゃんなんて、ちょっとすまなさそうに、はにかむんでしょうか。

 駅前で煙草を吸う男女を見て、ふと、思い出しました。伸びた前髪を通して見る、ふたりは暖かくて、眩しくて、煙草の煙は、橙がかった青空に上って、融けていきました。