小麦粉惑星

誰かいつもマーガリン潰してる。

【感想】『夫のちんぽが入らない』

  あたしをスキーに連れてって。ほんとに俺になんの負担もなく、用意もしないで良いスキー旅行をプレゼントしてほしい。それだけ尽くしてもらったとしてもきっとそれは楽しい旅行にはならなさそうだ。スキーなんて小さい頃に1回行ったきりだし、多分今行っても鈍臭くてちっとも滑れないだろう。本当に鈍臭い。きっと一からのスタートだ。Wiiフィットで鍛えたバランス感覚はきっと役に立たない、全部教えてもらわないと。ゲレンデに着いたら、無力な男は何もできない。まずここで、スキーに行こうという意欲が削がれる。出来ないことをめちゃめちゃ楽しめる時期は自分の中でもう終わっている。仕事とか義務的なものなら頑張れる。でも自分の自由な時間でそれをできるかって言うと微妙だ。

 小3の頃、逆上がりの練習を毎日やってる時なんて地獄だった。俺はなんでこんなに逆上がりができないんだ。鉄棒の前だと、うだつが上がらないんだ。ああ生きるってなんだろうなって思いながらずっと練習をしていた。本当に息が苦しくて、近所の公園の鉄棒の温度と、ざらざらの錆びた棒の表面、蹴り上げた砂の音とか、今でも夢に見る。喉が、からっからに乾いて、目が醒める。身体が熱い。

 もっと遡ると、幼稚園年長組の頃、お弁当に入った、たこさんウインナーが食べられなかった時期があった。感情移入が顔のついた食べ物にまで起こっていたのだから驚きだ。でも、こういうのって、なんで?って問われて、簡単に理由が答えられるかって言われると無理だ。理由なんてなくて、その時の自分がそういう自分だったってだけのことだ。今は軽く話せるけれど、当時はお弁当の時間は生きた心地がしなかった。滅茶苦茶につらかったんだよ。心が無理だったんだよ。

 『夫のちんぽが入らない』を読んだ。タイトルのインパクトもあって、巷で話題になってたじゃないですか。俺は、文庫になってたのを書店で見つけて、即購入した。端っこに平積みされてされていたのに、凄まじい存在感だった。すぐ手にとって、レジに行った。ブックカバーをかけてもらった。

 読んでみて欲しいので、内容とかあらすじに触れるつもりはない。でも、タイトル以上に読後の衝撃が凄いということは伝えておきます。俺はこの本を、普段、本を読まない人にも読んで欲しい。本当にこれは、自分のエゴだけど、いろんな人が読んで、そして、それぞれ生まれる感想を知りたい気がする。

 主人公の感情を理解することはできても、その視点と自分の視点を重ねることが出来ない。苦しさとか、辛さとか表面的には分かる、でも自分がその環境だったらって考えには至ることが出来なかった。それは、この物語が自分ではなく、他人の地獄だからなんだろうなと思った。

 宇垣アナという女子アナウンサーがいる。すげぇ美人で、聡明で、テレビ画面に映ってる時間全部が彼女だけのものになるような女性だ。

 この人が言っていた「人にはそれぞれの地獄があると思う。私には私の地獄がある。」って言葉がすごく良くって、このブログ書いてて思い出した。

 みんなこんな美人に地獄なんてないだろって思ったり、言ったりするだろう。そんなの当たり前で、そりゃ他人だからそんな風に言うわなって話。彼女の地獄について、彼女以上に悩める人はいなくって、そしてそれを本質的に理解できる人はこの世で唯一、彼女だけなんだよなってこと。

 俺の逆上がり練習とか、たこさんウインナーとか、めちゃめちゃ苦い思い出で、かなり地獄なんだけれど、多分みんな完全には理解できないと思う。でも、俺もあなた達それぞれの地獄について理解できない。どんなに近い人、親しい人でもきっと。だってその人は、あなたじゃないし、あなたは俺のではないから。じゃあどうするんだ、理解しあえないまま生きていくしかないのかっていうと違って、人に優しく生きていくしかないじゃん、自分だけじゃなくて、周りの人それぞれに地獄があるって思えば、いつもより優しくなれる気がするじゃんってことなのかもしれない。これが俺の『夫のちんぽが入らない』の感想。周りに読んでるのバレるの恐れて、ブックカバーかけてた自分を恥じました。

 内容にあまり触れないで、感想書いた。ツイッターでオススメすると、心配されそうなので、こっちで沢山書いた。ピース。コミカライズ版もめちゃめちゃ好きで単行本買いました。作画を担当している、ゴトウユキコさんの漫画元々好きなんだよな。おとぎ話みたいだけどリアルな性と生を描く瞬間があってガンガンに頭を揺らしてくる作品が多い。『水色の部屋』とかショッキングな話なんだけど、憧れとか懐かしさって、たまに屈折するよなって浸ることができる作品だった。是非読んでみて欲しい。

 

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