小麦粉惑星

誰かいつもマーガリン潰してる。

檸檬問題

 唐揚げにレモンかけますか?

 大勢で食事をしている時、断りもなく唐揚げにレモンをかけてはいけないみたいなネットで語り尽くされて、もうそれ暗黙の了解とかじゃないじゃんのアレありますよね。でも実際に唐揚げにレモンを勝手にかけちゃう人を見たことがない。大体、みんな譲り合って「これ、僕がかけちゃっても大丈夫ですか?」とか言って、誰かが低姿勢でレモンをかける。大皿の料理にかける用のレモンが添えられているとすごくドキドキする。もしかして今日は俺がレモンをかけなければならない番なんじゃないか? 誰か上手な人が絞ってくれないかな。などと思うのだ。なんとなく自分みたいな軟弱なふにゃふにゃした男がレモンを搾ってかけるよりも、ちょっとスポーツやってましたみたいな爽やかな、そしてちょっと力もある男性がレモンかけるほうがみんなも気分良く食べられるんじゃないかなって思ってしまう。実際問題、自分はレモンを絞るのがそこまで上手なわけではない。スマートにレモン絞れる人を見ると「わぁ、かっこいいなぁ」って本当に思う。日常の動作みたいにレモンを搾れるのはすごいよな。

 でもどうしても搾らねばならぬときがやっぱりあって(年だったり、テーブルの雰囲気)覚悟を決めて搾るのだけれど、自分がやると、もたもたして小学生の理科の実験みたいになってしまうし、くし形のレモンを40%くらい搾ったらひと段落ついてしまう。理想としては80%くらい搾りたいとは思ってるんだけれど、飲み会のテンポが悪くならないかなと心配すると40%くらいで手が止まってしまうのだ。レモンを上手に搾れないという大犯罪を犯した自分は、申し訳なさそうに皿の端から唐揚げを取ると、大してレモンがかかっていない。そりゃそうだ、40%分の果汁しかかけてないんだから、端までレモンが行き渡るわけがないよ。

 レモンに関わる話だと、自分は凄くレモンサワーが好きで、こりゃもうEXILEメンバーくらいレモンサワーが好きなのだ。大体いつもレモンサワーを頼むことが多い。しかし、レモンサワーにおいても悩みがある、お店に行ってレモンサワーと「生搾り」レモンサワーがあると生搾りの響きに惹かれて、そっちを注文してしまう。店員さんがステンレスのジューサーと半分にカットしたレモンを持ってきたときに、「あっ、間違えた」と思うのだ。早く搾らねばならない。他の人たちにはもうハイボールやら生ビールやらカシスオレンジがもう来ている。乾杯を一刻も早く待ち望む彼らの視線を受けながら、搾らねばならぬのだ。秒速でレモンを搾らねば、この重圧でレモンが搾られればいいのに、なにがプレッシャーだよ、レモンひとつ搾れないくせに。早く提供しなければならないという飲食店厨房の苦しみを体験できる恐ろしいセットである"生搾りレモンサワー" 力一杯搾る、体重をかけてえぐりこむ様に、搾るべし、搾るべし。親のある奴はくにへ帰れ、俺とくる奴は狼だ。やるぞ!やるぞ!やるぞ!

 ようやく"生搾り"レモンサワーが完成した頃には自分は軽くぐったりしていて、大抵は「おつかれ〜」などと言われ、ヘラヘラと笑って乾杯することになる。テンポを乱した犯罪者を待っていてくれてありがとう。みんないい奴だな。こんな思いをするくらいならもう生搾りレモンサワーは頼まないよ、よおし、ゲンマンしよう、普通のレモンサワーしか飲まないから、きっとやめるといいつつ、ヨシちゃん、ごめんね、また飲んじゃったという具合に生搾りレモンサワーの魔力には勝てないのだよなぁと話でした。