小麦粉惑星

誰かいつもマーガリン潰してる。

青い花

 好きだった人から求めてた言葉が来ることなんて無くて、たまに送られて来る言葉は絵葉書みたいな、何の足しにもならないようなものだ。ぼくは昔、それらの言葉が花の名前のように素敵なものに思えた。

 4文字のひらがなは炸裂する。いつか炸裂する。ありがと、すきだよ、ごめんね、さよなら 一つひとつが爆弾。花びら型の爆弾。音も無く炸裂する。気づいたら心に穴が空いている。その空洞を、春風が、夏の匂いが、秋の空気が、冬の雪が通り抜けていく感覚に名前は無い。

 ネモフィラの花を見にいかなかった。いや、見にいけなかった。あの花には貫通する青さがあり、浸透する痛みがある。傷を持っているから染みるのだ。真っ赤な膝小僧に消毒液が落ちる、あれに似た苦痛とか、かなしみとかそんなものを水で薄めたような時間とネモフィラの花は重なって思える。

 人生に続編はない。ナンバリングはされないし、マイナーチェンジもない。生まれてから死ぬまでカメラが止まることはない。間違えてもリテイクは掛からない。ifなんてない。切り捨てた事、人は自分の与り知らないところで続いていく。

 叶わなかったものはなんであんなに綺麗なんだろう。叶えられなかったこと自体を憎むことは少ないね。叶えられなかった自分の存在が悔しい。永遠になれなかったものの癖に永遠不変のイデアみたいな顔でずっとそこに在る。正しいことが全部全部良いものだと思っていた。でも全然違ったね。正しいから邪魔なことがあるし、綺麗なのに苦しい。

 今、自分の手のひらを見ると、好きな物、人がある。永遠にしたいものばかり。それらをじっと見つめる度に、永遠になり損なった花の名前みたいな言葉をひとつひとつ忘れる。