しののめと言う唇の柔らかさ
結婚式に行く夢を見た
何の表れなのかわからないし、分析をするつもりもない。頻繁にそんな夢を見る。しかし新郎新婦の姿は全くといっていいほど捉えられない。「一体誰の結婚式なのだろう?」と気になって、チャペルの奥を見つめるが、彼らの輪郭はぼやけたままだ。
参列者に声をかけられる。
きっと、どこかで仲が良かった人なのだろう。適当に返事をする。
ゆったりした音楽が途切れることなく流れていて、趣味の良いステンドグラスが何枚も飾られている。目が痛くならない程度に明るく、うるさいと感じないくらいに賑やかだ。悲しそうな顔をしている人は会場のどこにもいない。流れるのはすべて嬉しい涙。私はそれをやり過ごすためになんとか笑っているのだ。何処の誰の結婚式なのか、何の為に参列しているかも分からない。
暖かな光で満ちたチャペルの中で、私はいつか見た唇の動きだけを思い出す。まじないのように何度も繰り返す。
しののめ
顔全体は見えない、洋紅色の唇ひとつに支配された視界。
しののめ
いずれ音も無く、口元だけが動くだろう。
しののめ
段々と、色を失くしていくだろう。
しののめ
忘れてしまうのだろう、東雲に底の無い黒さがあることを。
しののめ
柔らかさだけを覚えている。触れたことなど無いのに。
しののめ
手に入らなかったものばかりが優しくて、
しののめ
左様なら、と言えずに目が醒める。