小麦粉惑星

誰かいつもマーガリン潰してる。

【感想】『町田くんの世界』

 何巻も続く漫画の単行本をめっきり買わなくなってしまった。一冊で完結する短編集であったり、多少続くとしても3巻くらいまでの作品ばかりに手を取るようになってしまったここ2、3年。そんな最近でも、新刊が出るたびに書店で買っていた作品が少しだがある『私の少年』『ホームルーム』、そして1年ほど前に完結してしまったが『町田くんの世界』である。

 『町田くんの世界』が映画化するということを知ったのは5月の頭、たまたま立ち寄った高円寺のヴィレヴァンで映像が流れていて、初めてその情報を得た。関係ないけど高円寺と三軒茶屋ヴィレヴァンってめちゃ構造似てると思いません?まあ、それはいいや。

 『町田くんの世界』は1巻が出た頃から、ちゃんとリアルタイムで追い続けられた作品で、かなり思入れが強かった。少女漫画面白いな、別マいいなーって自分の中で盛り上がってたじきだったのかな。普段漫画読まない母親にも貸した。泣いてた。『君に届け』貸した時も泣いてた。割と感情のツボが似てる。

作品のあらすじは、ぶっちゃけwiki読んだ方が分かりやすいし、詳しいと思うから気になる人は読んだらいいんじゃないかな。

 自分がこの作品を好きで、買い続けられたのはきっと、この物語が実生活における「やさしさ」みたいなものと向き合うヒントをくれたからだと思う。

 主人公の町田くんという男の子は、優しい。眼鏡をかけていて、頭が良さそうな見た目なのに、全然勉強はできない。運動ができるわけでもない。ただただ優しい。でも優しい自分に奢ることがない。彼のまわりには、たくさんの人がいて、みんな町田くんに好意を持っている。作者の安藤ゆき先生は、町田くんのまわりにいるたくさんの人の気持ちが淡く香るような描き方をする。これが良い。自分の友達が誰かに褒められているのを聞くと、自分のことのように嬉しくなるときが生活のなかであると思うのだけれど、この作品を読んでいると、それに似た感情が湧き上がってくる。

 町田くんは人を助けたり、人から助けられたりしながら生きている。与えるだけでなく与えられる人でもある。これがすごく大事だ。「やさしさ」が町田くんを経由して人から人に伝わっていく。温度が、気持ちが届けられていく。

 本を閉じると、いつもはっとさせられる。自分のこころを乗せたものは丁寧に扱いたい。相手のこころの乗ったものを乱暴にしてはいけない。わかっているのにたまにできなくなってしまう。漫画の世界だから綺麗事がまかり通るのかもしれない、でも綺麗事を求めたい瞬間が何処かにある。こころだけは誰であっても、真剣にやりとりしなければならないような気がずーっとしている。

 後半は恋愛色が強くなっていく作品なんだけれど、それも含めて好きだったな。町田くんは、人間というよりやさしさの化身みたいな存在で、愛されているけどまわりから浮いている雰囲気もあった。「恋愛ってなんだ?」って何もわからない状態から、行事や生活の中で気づきを得ていく過程がゆっくり描かれているのが、本当に素敵でたまらなかった。にやりとしてしまう。気づきが生活のなかから生まれるというプロセスはずっとあり続けて欲しい。世界がどんな風に変わっても、くらしによってこころが動かされることは無くならないでほしいなと思った。

 色々思い出しながら書いてみた。映画もなかなか評判良いみたい。気になる方で作品に触れてみてほしいな。両方でもいいと思いますけど。是非。