小麦粉惑星

誰かいつもマーガリン潰してる。

【感想】『言の葉の庭』

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面白かった。この作品に奇跡や魔法は登場しないけれど、それと同時に徹底したリアリティの排除もなされている。では何があるのか、美と質感だ。

現実っぽいけどリアリティは無く、質感だけ残る。そこが良い。

何が良かったのか詳しく書く。未視聴の場合はこの後は読まないほうが良いかと(偏見がすごいので)

 

  1. 女性美をとことん描く

自然美に劣らない、女性美の鮮烈さよ。

ヒロインの首とか、ビール飲むときの喉、足首、めちゃくちゃ綺麗だなと思いながら観ていた。

こんなに過剰に描写する!?とも思ったんだけど、これがないと終盤の展開には繋がっていかないんだろうな。

 

「まるで世界の秘密そのものみたいに彼女は見える」

この台詞が、物語の入り口に当たるような台詞だと私は思う。

「世界の秘密」たるヒロインの存在は、ミステリアスで、それ以上に魅力的でなければならない。もしこれが半端な美だったら、恐らく駄目なんだろう。

だから、あそこまで女性美を描いているように感じる。ヒロインのこまかな仕草と生活風景だけでずっと画面が持つくらい美しい。

 

新海誠監督のインタビュー読んだら、
「10代の男の子が観て女の人の足が好きになってしまうくらいの映画にしたいと思いました。」
とあった。やっぱりコンセプトの一部だったんだ。通りで…。

 

そして、女性美と自然美を余すことなく表現したことが、恋愛作品であるのに「性」でまとめることをせずに済んだ理由のひとつであるように感じた。

 

 2."会える"から"会えない"へ

 

主人公とヒロインお互いの考えが「雨が降ったら会える」から「雨が降らないから会えない」に変わるのが良い。どんなに美しい関係であっても、自然は、世界は贔屓してくれない。都合よく奇跡は起こらない。

しかし、ヒロインの靴を作る約束までしたのにお互いの名前すら明かさないというのは、全く現実味がない。当然梅雨が終わってしまうということは、お互い分かっているのに連絡先を交換することもない。このように列挙するとリアリティの排除が顕著にみられるが、作品全体としては、あまり違和感無く観られる。

果たして「世界の秘密そのもの」のような女性と連絡先を交換しようと思うだろうか。分からないままにしておくという気持ちに少しも共感できないということはないだろう。

 

3.お互いの境界が融けあってゆく瞬間

 

2つのシーンから感じた。

ヒロインの足の採寸をするシーンと、クライマックスのシーンだ。

前者では素性のわからない2人が通じ合う瞬間を描き、後者では素性が明らかになった上でお互いをぶつけ合う瞬間を描いていたように私は思う。

主人公とヒロイン、2つの「個」が触れ合い、その境界が甘く緩む、そして最後には1つに融けあっていく様を丁寧に描いていた。

 

4.「性」で恋愛をまとめない

「性」を展開の道具にしなかったのも印象的。足の採寸のシーンは隠喩だと思ったけれど、そのシーンまでに女性美を延々と描いてるから、そうじゃないと視聴者は錯覚する。官能的だけど、エロくない。女性美と自然美が補正をかけてくれているお陰で視点が逸れていかない。

ヒロインを追い詰めて退職に追い込んだ原因の女子生徒が「淫乱女」って言った場面くらいじゃないか、「美人の女性教師」という属性に対するやっかみや、いじめの内容を想起させるシーンは。主人公がその言葉を聞いた瞬間に、女子生徒の頬を打つシーンも含めてだと思うけど、ここでクライマックスへの厚みを出してるのかなと感じた。そして、必要最低限で留めている感じがする。詳しくしすぎたり、増やしすぎると俗っぽくなってしまうから。いい塩梅だった。

 

 

全体を通しての感想としては、

理想的な男女の恋愛で綺麗なんだけど、あまりにも「性」を遠ざけすぎていてリアリティがない。でも本当に人間が求めているのは、こんな心の交流なんじゃないの?みたいな作品だった。リアリティの有無にとらわれない質感があって良かった。

 

視聴済みの方、作品の感想教えてください。知りたいので。