小麦粉惑星

誰かいつもマーガリン潰してる。

【感想】 『念力恋愛』 0.8倍速で観るハイライトのようだ。

先日『念力恋愛』(笹公人  絵・水野しず)を購入し、先程読み終えた。

 

ひとことで感想を述べるとしたら、

 

ハイライトを0.8倍速で観てる

 

だった。

 

この1冊は、レイアウトやデザイン、そして水野しずの絵を最大限に活かした歌集だった。

どのページから開いても楽しいのは、1首1首がすごく立っているからだろう。従来の歌集は1ページに4〜5首収められていることが多い。だから歌の並びで濃淡が生まれたり、目立つ首、引き立てる首が決まってくる。

しかし、この『念力恋愛』は1ページに一首という贅沢な構成を取っていて、デザインやイラストが効果的に歌を引き立てているのが面白い。それ故に、短歌にあまり馴染みがない人に薦めやすい1冊だと感じた。

固有名詞が多く、知らない固有名詞が含まれていると情景がなかなか浮かばないというときも大丈夫だ。水野しず氏が歌の芯みたいなものを的確に捉えた絵を描いており、歌の理解をかなり助けてくれる。

また、短歌を実践している人が基本に立ち返ることのできる1冊でもある。

一首の歌を鑑賞する余韻みたいなものも、この手法によって生まれてきているように思う。

歌ひとつひとつに「これはどういう状況なんだろう?」と興味を持つことは鑑賞の基本だ。しかし、短歌に興味を持ち、歌集や連作を沢山読み出す頃、若干作品を流れで読むようになってくるということはないだろうか。そんなときに『念力恋愛』が効いてくる。

一首を丁寧に読むことの面白さをもう一度体験することができるのではないだろうか。

 

鮮烈な印象をそれぞれ持つ歌を、ゆっくり楽しむことができる。

それはさながら名場面を集めたハイライト映像を0.8倍速で再生しているような気分になった。

 

収録内容は是非読んで確かめてもらいたいので、あまり列挙はしない。

しかし帯にも引用され、笹公人氏の有名な一首をまず挙げておきたい。

 

修学旅行で眼鏡をはずした中村は美少女でした。それで、それだけ

 

この歌集は恋愛をフィーチャーした1冊であるが、やはり上の歌が印象的で、この歌集を代表している一首と感じた。

 

この歌から、私は恋愛というものの所謂最大瞬間風速を感じた。修学旅行での、この1シーンはきっと宝物のような思い出になるに違いない。そして、他の物事とは比べることができないような独立した煌めきがある。

そんな独立した煌めきを持つ短歌が、108首も収録されている。解説ではそれらを星団に例えていたが、すごく的確な表現である。

 

そして、最後に一首、特に心に残ったものを挙げて終わりにしたいと思う。

 

みんなして異次元ラジオを聴いたよね 卒業前夜の海の明るさ

 

異次元ラジオのカルト感、妙な一体感、妙な全能感、これから良い未来が待っているような気持ちでいっぱいになる。最高の輝きを持つ一首。大好きです。